宇宙 怪獣 人間。

科学や学識が極限まで積み高まり海で酩酊できるほど環境汚染が進みつも戦いは止まぬ、終末まっしぐらな星でこの究極の合成生物は開発された。この子は怪獣と呼ばれるに相応しくただひたすらに総てを喰らい尽くすという究極の破壊である生と未来を確定づけられている。分厚くけぶる硝煙で閉ざされた敵国より放たれる新兵器開発を知らせる矢文が我々科学者の喉を掠め恐怖したか。或いは汚染速度を倍増させている敵国を滅ぼしその分の生を得ようというあがきか。それともはっきりと見える形で色をなし迫り来る種の終わりに臨み荒廃した精神が自滅の狂気を宿したか。違うのだ。それは総てと相容れぬ存在ではあるが作り出した我らにとって希望の存在なのだ。この星に生きる総てにとって終わりである子は生まれるや、産声を上げる事もせず手にする物を口にし、口にふれるものを飲み込み、やがて足につく物をかじりはじめるだろう。そして周り総てを喰い尽し喰らう物がなくなると自身の生を失い眠りにつくのだ。心地よい天上世界に浮かび揺られ、眠りながら我らの子は総ての母となり我らを生み育む。再び己が生を全うする為に。



かつて愚かなる父の望むとおりに本懐を遂げた大いなる獣が居た。その子はゆりかごのあった場所で約束の眠りについている。今や宇宙の守護者たる我ら光の巨人は、かつて幾度と無くその子が世界を喰らい、生み、また喰らうのを遠く観てきた。己の生と他者の破壊という完全なる璧を成すその一体はこの多次元方向に進行する故に無限である宇宙の中でも恐怖の存在だ。総てを己として己を喰らい、それ故に限られた無限という矛盾を孕み増殖し続ける姿に、我らと同じく本質的に無であり続ける世界の宙を漂い生きる有限なる者は、その侵食する無限とその内に秘められた永遠の死に恐れを覚えた。そしてその目覚めを妨げる為、正気に至る前に元始の姿へ返すべく破壊しようとするのだ。
我らはそれを止める。何故なら、破壊と併呑を確定づけられた獣に対して、我らも争いを止める事を確定付けられた存在であるからだ。まみえる事の適う無限という唯一の存在、永続する恐怖の過程でその対として生まれ続ける我ら。袂を分かたれた有限なる者は、己の生を全うすべく星々の合間を飛び生き、そして得た結論として己の生を全うすべく子を破壊せしめんとする。我らは己が生の為にそれを止める。キョウダイの永続する生を守るため、キョウダイを殺し続け、キョウダイは生まれ、増え続ける。
キョウダイが愚行か、或いは妄想をやめない限り、永遠に。