刻こっく

午前様で帰宅し、ばたっと倒れ込むよーに寝付いたのだが、カチコチカチコチいう音で起こされた。何故かラックの上に鎮座しているぜんまい式のメトロノームがアンダンテで時を刻んでいる。眠りを妨げる慮外者ではあるが、冬の名残のせいか布団の居心地が良く、直ぐに止めに行こうと云う気になれず、気まま優雅に音をたてて動くそれをぼうっと眺めていた。暫くそこいら中空を捉えながら、時を刻むというのは良い表現だよなあと考えていたら、巨大な銀髪の時の女神が割烹着を着て何も無いまな板の上に調子よく包丁を叩きつける様が浮かんできた。その様を観て、何も無いまな板で何やってんだろーね、と含み笑いをしていたら、キッとこちらに視線を向けて「アンタの為にやってんでしょ!」と一言吐いて何処かへ霧散された。なんかなぁ、おふくろさんライクな女神様だったなぁと思いながら、カチコチ音を子守唄にまたまどろみ始めた。暫くしてぜんまいが切れたらしくその音も止み、私の意識もそこで終わった。