無頼かSか。

出張り先からの帰宅途中の電車内にて。ラッシュ手前の時間帯、程々に歳を召されたお婆さんが、がっしりと座席横の鉄棒を握り締め、揺れに耐えながら立っていた。



その様子ちらちらと見ていた中学生ぐらいの制服姿の少年が、2分ほどして
「あ、すみません。席どうぞ。」
と、席を譲るべく、声をかけた。至極礼儀正しい。
しかしお婆さん
「いえいえ、いいんですよ。すぐ降りますので、ありがとうねえ。」
やんわり、にっこりと、断る。まさか断られるとは思っていなかった少年。無言で席に座り、場に浮上してしまった己が体裁を繕い鎮めるかの様に、鞄から本を取り出し、顔を沈めた。

それから終点、ターミナル駅までの30分。お婆さんは少年の横でひたと鉄棒を掴み、揺られつ立っていた。意識したように凛とした立ち姿のお婆さんと、次第に当惑して妙にせわしなくなっていった少年が印象的であった。