読了証印 ハイペリオン上下巻

車中。読むべき教導の書は了し、旋律を耳にするには頭が澄み渡っていたので車窓から望むる田園風景に妄想するか本を読み耽るかの二択に迫られた所、都合良く列車が山のへそに突入。読めって事すかーマイガ。そこまで宣託を明示されては拒める理由も無さそうなのですごすごと読んだ。ちゃんと読みました、と云う証と、内容を今一度身中に沈める為にも、適当な感想をここに記しておく。



読んだ本 ハイペリオン上巻ハイペリオン下巻 ダン・シモンズ
ハヤカワ文庫で全4部各上下巻の8冊のシリーズだそうだ。以下感想。

鋼鉄の殺戮の神(神なのか何なのか読了後は疑わしかったが)への巡礼の旅、という触れ込みを喰っていたせいで期待感は低かったのだが予想を裏切って、映像が飛び出るほど面白かった。一週間かけてちまちまと二冊読了。

巡礼の旅の話といっても劇中でダイナミックに展開されるのは巡礼中に各人が同行者に語る巡礼に至るまでの経緯、エピソード。この各エピソードが非常に秀逸。読むほどに語り手と聞き手の性格のみならず勢力の対立模様や科学、社会的様相が深みを増し、巨大で深遠、緻密な世界が脳内で次第に構築されていくその過程に無理が無く、その高揚感で本の措き時を見失いそうになる程。総じては、その様に大世界観を描きつつも、あくまで実際語られているのはヒト個人の人生の物語。それらは求められたメシアが出現するような一部の人間にとって都合の良い狭窄な視点が拡大して出来た物語や世界、人格では無いので、生身の人としての感情の没入感が高い。

ヒトとして望み、持ち得たモノが剥ぎ取られ、心にぽっかりと穴が空いた巡礼者達は、死の神と称される存在への、望みの無い、しかし各々にとって絶対になってしまった巡礼に、希望と言うよりも渇望に近い感情で臨んでいる。互いの経緯を知り、理解しつつも、うっすらと全員の願いは叶わんとも知る。よもすれば巡礼の伝説自体世迷言で、皆して「神」の生贄になるだけかもしれないと思いつつ、手を取り合いその御許に向かう彼等は奈落の底で何を見るのだろう。