君に何を見る。

帰宅途中の電車内。上擦った声で学生服姿の少年が話しかけてきた。
少年  「おいおっさん何見とんじゃ。」
私   「いや何?誰が何見てるって?」
少年  「お前だよお前。さっきからヒトの事ジロジロみてニヤニヤしやがって。気持ち悪ぃんだよ。」
私   「いやいや、見て無いよ。見て無い見て無い。君の事なんて誰も見て無いよ。他の人に迷惑だしあんまり騒がないでよ。」
私   「・・・あっ、ああ?何いうとんじゃ、ざけたこというてんちゃうぞ、みてたやろがあ。ニヤニヤしやがって。ホモか手前。」
私   「いやだからさ、静かにしようよ。落ち着いてって。見て無いって。君なんて全く眼中に無かったんだって。いやごめんね、変な意味じゃなくてね、変な意味にとらないでね。」
少年  「みてた−−−」
と言おうとした矢先、向かいの席に座っていた強面の兄さんが立ち上がり少年の頬をはたいてずり寄った。
お兄さん「うるせえぞ。あ?静かにせえや。おっ?」




少年、一瞬の出来事で理解する間もなかったろうが、暴力に理解は不要。それは本能に作用するのだ。完全に黙らされ紅潮しつつ、怯えるような、憮然としたような、理解出来ないような、と表情をコロコロ変えながら扉を挟んだ向こうの端の席へと座り込んだ。

1分後。
少年が・・・。

泣き始めた。

泣きながら次の駅で降りていった。

私に罪悪感を残して・・・。



何とも言えない暗鬱な気分で迎えた乗り換えの終点駅間際。荷物忘れに注意云々と啓蒙のアナウンスが流れる中。
お兄さん 「で、何をみとったんですか。」
私    「え、ああー、うーん。」
私    「あの子制服のブレザーの前をはだけで、よれよれのカッターシャツをズボンから出してたじゃないですか。」
お兄さん 「うん。」
私    「そのシャツのボタンとボタンの間からですね、ベルトの遊びというか余りの部分がだらーんってはみ出てたんですよ。」
お兄さん 「うんうん、これね。」
私    「ええ。それがなんか、見事に直立してて、まあベルトの色のせいもあるんだろうけど、チ○コが出てるよーにみえちゃって。」

隣に座っていたおばさんが咳き込む様に吹いた。お兄さんは妙に嬉しそうな顔をして頷き、皆と一様にまた何処かへと向かう為の駅へと降りた。