サムの咆哮

鉄の箱内部にてごとごと揺られるだけの空虚な瞬間を埋めようと恐竜と生きた男という本を拝借、一気読み。以下だらだらと思いついたまま記す。



人類我一人という絶対の孤独の中でも生きる事をやめず恐竜世界でサバイバル生活を送り続ける主人公サム。長い苦闘の末、その孤独の中で、遂に生きる理由を見出す。希望でなく理由に帰結するという儚くも強い漢の話。

全体的に小説としての出来は、うーん。言いづらい。高名な研究者だった方の未公開だった趣味色の強い原稿を遺族が発見して勝手に出しただけな事もあってか練度が低いとでもいうか。第三者である編集者と読み手の存在を踏まえ推敲したバージョンを読みたくなる。作者の意識の投影であろうキャラクターは良くかかれているのだが、話を回転展開させる為のアンチテーゼ的な役回りのキャラクターが弱い。発言に至る説得力が無い。覚えの有る科白なだけでキャラクターにはなってないという感じ。原案としてはベタだけど味付けとしての展開が結構良く、結末もそういう終わりか!と言いたくなるものだけに勿体無い。話としては終わっているけど全体として完成していない。

サバイバル描写は「モンスターハンターR(リアル)」って呼べる代物でなかなか面白い。妄想を刺激されまくり。恐竜に立ち向かえる理由の、恐竜が「冷血動物である」「愚鈍である」という論説は現在の古生物学会では主流じゃ無い考えなのだけど、生存出来た正当性や話を膨らませるギミックとして非常に上手く機能しているので全く気にならない。

寧ろそれは想像力を助けるのに科学をいわば寸止めで利用しているという事か。古典SFで良くある事だが(書かれた時代が違うのでそれは必ず起るか)、これは正にその類型だったといえる。その手法は非常に好み。正に「お話」。知識が余り要らないので読み手の負担が少ないのが良い。

ちなみに私は中学生までSFという略語をずっとスペースファンタジーと読んでいた。必ずしも間違いではないケースもあったが。いや何と無しに恥ずかしい。