帰路で見る夢

寝ぼけ眼で時々おもう。何がそこにあるのか、あったのか。遠景、浮かぶ欠けた月、山の裾野に無理に座しているマンションの光、喧騒の上を巡るネオン、誰も居ないオフィス街、黒塗りの車から流れ出る紫の煙、錆び朽ちた看板が語る古めかしい文句、何処かに繋がっている路地裏への路、電車を待ちながら計算機を叩く親父、向かいに座る姉ちゃんの慣れた笑顔、住宅街に漂う夕飯の混合臭、乗り捨てられた三輪車、不味くないハンバーガー、隣家の扉が閉まる音、下らない映画、上階で子供が走る足音、鳴らない電話、暗闇、ビデオデッキの光。そこに観得るのは未知ではない、知っていた物語。まだまだ語られてはいない。